iOS アプリは、Mac と Apple の開発者アカウント、Xcode をそろえれば、コードが読めなくても Claude Code との会話で作り始められます。鍵になるのは、AI が苦手な認証・課金・審査といったコードの外の手続きを、AI が操作できるサービスとコマンドで置き換えることです。一方で、App Store に出すには年間の開発者プログラムの契約が要ります。審査で動かないアプリは落とされるので、Web サイトのように作ってすぐ公開、とはいきません。
2026年7月14日のセミナーでは、講師の宇野慎一郎さんが、デジタル名刺アプリ「Miica」を Apple の審査を含めて2日で公開した経験をもとに話しました。扱ったのは、必要なもの、開発の流れ、使ったツール、費用の目安です。
Miica は、X や Instagram、Facebook などの SNS の QR コードを Apple Wallet にしまっておき、交流会などですぐ出せるようにするデジタル名刺アプリです。宇野さんが交流会で Facebook の QR コードを出すのにいつも手間取っていた、という自分の課題から生まれました。
タップで拡大Miica では SNS の QR コードを Apple Wallet にしまい、交流会ですぐ出せる。
1日で作り、次の日に Apple の審査を通して公開。サブスクリプション課金と広告(見ると特典がもらえるリワード広告や、下から出るバナー広告)も入っていて、実際に収益が出る形で運用しています。宇野さんはこのスピード感を、最近の AI 開発の大きな変化だと話していました。
iOS アプリは Web アプリと何が違い、どんな部品でできている?
Web アプリなら、ChatGPT や Claude に頼んで作ったものをすぐ共有できます。iOS アプリはそうはいきません。App Store に出すには Apple の審査があり、ボタンが動かない、画面が真っ黒、といった状態では落とされます。ちょっとしたバグは通ることもありますが、まったく動かないものは公開できません。
タップで拡大Web アプリはすぐ共有できるが、iOS アプリの App Store 公開には Apple の審査がある。アプリ開発は「作る」だけじゃない。準備(環境構築・アカウント登録・設計)、開発(UI作成・機能実装・AI活用)、テスト(動作確認・テスト自動化)、提出・審査(ビルド・App Store提出・審査対応)、公開・運用(リリース・データ分析・改善)の5つの工程
アプリ開発は「作る」だけでは終わりません。準備、開発、テスト、提出・審査、公開・運用の5つの工程があり、この全部を AI と道具で楽にしていく、というのが当日の話の骨組みです。
LINE を例にすると、見た目の画面、チャットを送る機能、送った内容を保存するデータベース、ログインのための認証、スタンプを買う課金、広告、通知。アプリはこうした部品を組み合わせてできています。
App Store の審査を通さなくても、TestFlight を使えば限られたテストユーザーにアプリを配れます(TestFlight は Apple Developer Program の会員向けの機能です)。まずそこまでを一度やってみる。宇野さん自身も簡単なアプリから機能を少しずつ足す経験を重ね、その先に2日での公開があったそうです。
始めるのに必要なものと、最初にやることは?
前提は4つです。Mac、Apple ID、Xcode、そして Apple Developer Program。Xcode は Mac の App Store から無料で入れられる Apple 純正の開発ツールで、AI で開発する場合は入れておくだけでよく、画面を開かなくても進められます。
iOS開発の前提条件。1 Mac、2 Apple ID、3 Xcode、4 Apple Developer Program の4つをそろえればスタートできる
いちばんの障壁は Apple Developer Program だと宇野さんは言います。App Store にアプリを出すには、この開発者プログラムを年間契約する必要があり、Apple の公式サイトでは年間メンバーシップが99ドルと案内されています(2026年11月時点)。宇野さんの実感では年間1万5千円ほどとのことでした。Simulator での動作確認や、Xcode から自分の iPhone で動かす範囲なら、契約しなくても試せます。講師は TestFlight での自分向けの配布も無料でできると話していましたが、Apple の会員区分の比較ページでは、ベータ配信に使う App Store Connect は Apple Developer Program に登録したあとに使える機能として案内されています(2026年11月時点)。
タップで拡大iOS アプリ開発を始める4つの前提と、かかるお金。Mac はほぼ必須、Apple ID と Xcode は無料、Apple Developer Program は年額あり。Simulator と Xcode での実機確認までは契約なしで試せ、TestFlight での配布は契約後
iOS アプリの作り方は大きく2つあります。Expo は、同じ言語で iOS と Android の両方を作れる仕組みで、コマンドが多いぶん AI が操作できる範囲が広いのが利点です。Swift は iOS 専用で、UI がきれいに仕上がり、ビルドも速く、Apple Wallet やウィジェットなど Apple 専用の機能を全部使えます。
Expo と Swift の違いを注文住宅と一から家を建てることに例えた表。開発スピードは Expo が速く Swift は遅め。自由度は Expo が中くらいで Swift はとても高い。AI との相性は Expo がとても良く Swift は良い。Apple 純正機能は Expo が一部制限あり、Swift はすべて使える
宇野さん自身は寝起きの写真をシェアする SNS を Expo で、Miica を Swift で作っています。結論は「最初は Expo、理解は iOS」。Expo は楽に始められるので最初の1本に向き、こだわって作り込みたくなったら Swift へ、という順番です。
タップで拡大最初は Expo で速く、こだわるなら Swift。Expo は iOS と Android を同じ言語で作れて AI が操作できる範囲が広いが Apple 専用の機能に一部制限がある。Swift は iOS 専用で UI がきれいで純正の機能を全部使えるが環境構築に時間がかかる
気づきとして挙がったのが、両方に出すつもりで Expo を選んでも、決済はそれぞれ実装が要ることです。見た目は AI がすぐ作れるので、iOS で流行ってから Android 版を足せばいい、というのが今の考えだそうです。Claude Code に Simulator を立ち上げてもらうときに、Expo で作るか Swift で作るかを先に伝えておくと、あとの設計が楽になります。
AI が得意なことと、苦手なことは?
昔は人がコードを書いてアプリを作り、少し前までは人が AI にコードを書かせていました。今は、認証や審査といった周りの作業まで AI が自動化し始めている、というのが宇野さんの見立てです。
AI が苦手なこと。認証(2段階設定やセキュリティ設定など)、課金(支払い方の登録や更新ルールの設定)、Apple 審査(審査基準の解釈やリジェクト理由の分析)、証明書(証明書の作成・更新・期限管理)、ストア設定(ストア情報の入力や設定方法の把握)。コード以外の周辺作業で迷いやすいので、そのまま全部は任せない
得意なのは画面を作る、画面を直す、API とつなぐ、テストコードを書く、多言語化する、セキュリティの弱点を見つける、といった作る作業です。苦手なのは認証、課金、Apple の審査、証明書、ストアの設定。コードの外にある手続きで、管理画面を操作したり証明書を発行したりする部分は AI が自分では触りにくい所です。
タップで拡大コードは速い。コード以外の周辺作業で迷いやすい。得意は画面、画面の修正、API との連携、テストコード、多言語化、セキュリティの弱点を見つける。苦手は認証、課金、Apple の審査、証明書、ストアの設定。苦手な部分を AI が操作できる外部サービスとコマンドで置き換える
AI に1機能ずつ作らせ、Simulator で確認するサイクル。指示(AI にやってほしい機能を具体的に指示)→ 実装(AI がコードを生成し機能を実装)→ Simulator 確認(Simulator で動作を確認・検証)→ 修正(必要に応じて指示を追加・修正)。一気に作らない、1機能ずつ検証、画面で確認してから次へ
認証・データベース・課金は、どのサービスを使った?
Miica では、ユーザーのデータと ID を管理する必要があったので、認証に Clerk、データベースに Convex を使いました。どちらも最初は無料で使えます。この2つを選んだ理由は、AI エージェントとの相性です。ターミナルでログインのコマンドを一度打てば、あとは AI がデータベースの管理画面や認証の設定まで操作してくれます。
DB と認証。Convex はデータ保存(アプリのデータを安全に保存・取得、リアルタイム同期も得意)、Clerk はログイン認証(ユーザー登録・ログイン・セッション管理をシンプルに実現)。Miica ではユーザーのデータと ID を管理する必要があったため両方を導入したが、すべてのアプリに必須ではない
動くものができたら、App Store に上げます。ビルドと提出は Xcode の CLI、Expo で作った場合は EAS というコマンドで行います。宇野さん自身も普段の開発は、Codex や Claude Code を動かすターミナルと Simulator の2つの画面だけで進めているそうです。
公開。App Store Connect API と asc を使って、提出・メタデータ管理・公開までを自動化する。1 ビルド済み .ipa を用意、2 アップロード、3 メタデータ更新(アプリ情報、説明、画像、スクリーンショットなど)、4 公開(審査通過後、指定したタイミングで自動的に公開)。App Store Connect API(Apple の公式 API)と、asc という CLI ツール
App Store に並ぶときのアイコン、説明文、スクリーンショット、利用規約、対象年齢といった情報の入力も、App Store Connect API(Apple 公式の API。2026年11月時点)と、それをコマンドで扱う CLI ツールを使えば自動化できます。宇野さんの言い方では、提出の最後のボタンを押す所以外はほぼ自動化できる。Apple の管理画面からダウンロードした鍵のファイルを渡しておく必要があり、取り方は少し複雑なので、そこは調べたり AI に聞いたりして進めてほしいとのことでした。ウィジェットや通知のような Apple 専用の機能を使うときの設定も、この CLI 経由で自動で行えるので、必ず入れてほしいツールだと話していました。
質疑応答で出た宣伝の話も実践的でした。宇野さんはアプリを伸ばすために X で発信していて、Miica の投稿が最初は伸びなかったとき、1,500円分の X のブースト広告をかけたところ、広告で買った表示は2〜3万ほどなのに、そこから40万表示まで伸び、最終的に50万表示ほどになったそうです。フォロワーが少ない最初の数日は、広告を買うのも選択肢になります。ダウンロードは1,000ほどで、課金のコンバージョンは3%前後でした。
タップで拡大初期費用はほぼゼロ。年間の固定費は開発者プログラムが中心。1 作るときのお金はほぼかからない、2 続けるときのお金は年間約1万5千円+AI、3 売上が出てからかかるお金は RevenueCat の1%。当日の見立てでは AI の利用料を除き細かいツールを足しても年5万円ほど
続けるときの固定費は、Apple Developer Program の年間1万5千円ほどが中心です。AI の利用料は別で、宇野さんは Claude を月100ドルのプランで使っていました。当日のやり取りでは、AI の利用料を除き、細かいツールを足しても年5万円ほどという見立てでした。Cloudflare を使うと、ドメインの設定やサブドメインの追加までターミナルから自動化できるので、アプリ用のホームページを作るときにも勧めていました。
AI はコードを書くのは速いが、認証・課金・審査・証明書・ストア設定が苦手。Clerk、Convex、RevenueCat、Maestro、Xcode CLI、App Store Connect CLI で埋める
開発は、見た目から1機能ずつ作って Simulator で確かめる繰り返し
費用は初期ほぼゼロ、年間は開発者プログラムの約1万5千円と AI の利用料が中心
よくある質問
プログラミングの経験がなくても iOS アプリを作れますか?
宇野さんによると、Xcode を入れて Simulator を立ち上げ、AI に1画面作らせるところまでできれば、あとは Claude Code と会話しながら進められるそうです。コードを読めなくても、Simulator の画面を見ながら指示を出す形で完成に近づけます。
Windows でも作れますか?
厳密にはできなくはないものの、基本的には Mac が必要だと宇野さんは話していました。Xcode が Mac 用のツールだからです。
お金はいくらかかりますか?
App Store に出すには Apple Developer Program の契約が要り、公式サイトでは年間99ドルと案内されています(2026年11月時点)。Convex、Clerk、RevenueCat は無料枠から始められます。Miica の場合、初期費用はほぼ無料で、続けるための固定費は年間1万5千円ほどと AI の利用料でした。
Xcode の設定は自分で触る必要がありますか?
ありません。Xcode の設定はプロジェクトの中のファイルに書かれていて、そこを AI が変えられます。Xcode は Mac に入れておくだけでよく、画面を開かなくても Claude Code が CLI を通じて Simulator を起動したりビルドしたりします。
Expo と Swift はどちらを選べばいいですか?
最初の1本は Expo が始めやすく、AI との相性もよいので勧められていました。Apple Wallet やウィジェットなど Apple 専用の機能をフルに使いたい、UI にこだわりたいなら Swift です。どちらで作るかは、Simulator を立ち上げる時点で Claude Code に伝えておきます。
利用規約やプライバシーポリシーはどう用意しますか?
App Store に出すときは、規約やプライバシーポリシーを載せたページが要ります。Cloudflare Pages や GitHub Pages に AI で作ったページを無料で置いてリンクするのが手軽な方法です。アプリ用のホームページを作る場合は、そこに載せます。
Claude Code で自動化できない作業は残りますか?
ログインのような、ターミナルからブラウザに移って認証して戻ってくる操作は AI ではできないので、そのコマンドだけは自分で実行します。それ以外は、API の鍵を渡しておけば、作るアプリによってはリリースまでのループを組めるそうです。